クレープに哀愁を込めて

こないだたくさんの人々が利用するターミナル駅の地下にある立ち飲み屋に行きました。午後の8時を回った土曜日の夜で、人の姿はまばらでした。いつも混んでいるのですが、週末のこの時間帯はみんな街に繰り出して思い思いに楽しんでいるのだと感じました。店内には一人でのんびりと過ごしている方が多く、どこか静かで居心地が良かったです。私はナッツとビールを頼み、トレーに乗せて店の奥のカウンターにとどまることにしました。喉の渇きを潤そうとビールをグイッと飲んだ次の瞬間、カウンターの端にある本に目が止まりました。そこにはお菓子のレシピについて書かれた数冊の本が並んでいたのです。店内で販売しているようで「見本」と書かれたその書籍を手に取り、ペラペラとめくってみることにしました。季節のお菓子と題して簡単に作ることが出来るレシピが載っており、その写真からも四季を感じたものです。何だかとっても懐かしくなり、「自分で作ったのはいつのことだろう」と遠い記憶の彼方に思いを馳せてみました。そして黒砂糖を用いて作る沖縄伝統のお菓子を目にした時、幼い頃に母と焼いたクレープが頭に浮かびました。缶詰のミカンや桃、バナナにたっぷりの生クリームを包んだあの甘くてジューシーなおやつを食べることは、幼少の私にとってまさに幸せな時間でした。生クリームをクレープの皮からはみ出んばかりに入れて口の周りを白くしながら食べたことは、とっても大切な思い出です。最近ではお洒落なカフェで見掛けるクレープやガレットですが、私の記憶にあるのは母と作ったあの味だったと哀愁に浸ったのでした。