遥か遠い国の一室でおこなわれた朗読会について書かれた小説を読みました。ゲリラの襲撃を受けて囚われた日本人達とその国の兵士が、夜ごと自分の身に起こった体験を発表した朗読を集めた作品で、どの話もとても興味深いものでした。職業も年齢も性別も違う人々の体験談は丁寧に描かれており、日常生活の機微を描いていました。また「死と生」について語られたものが多く、遥か彼方で起こった出来事のようでもあり身近に潜んでいるもののようにも感じた不思議な作品でした。
幾つもの物語が収められている中で一番心に残っていたのは、幾度となく初対面で出会う人達に、彼らの亡くなったおばあさんに似ていると言われてきた女性の話でした。そのおばあさん達は性格も背格好も顔の造りも異なるのに、ふと醸しだれる表情や顔がその女性に似ていると他者から話しかけられます。繊細に描かれているため信憑性を感じてしまい、小説と分かっていても現実に起こっているかのように思えたことは言うまでもありません。
「亡くなったおばあさん」に似ていると語った人々の心の中に刻まれたおばあさんの存在。そしてふとした出会いから亡き祖母を思い出す機会を与えてきた語り手の女性には、生まれ持って与えられた宿命のような深いものがあるように感じたのでした。