もう何年も前のことです。友達が住むアパートに遊びに行った時、窓から大輪の花火を見ました。梅雨が明ける前の蒸し暑い夜に美しく空に上がる花火はとっても綺麗で、幸先良い夏の始まりを感じたものです。友人が住むアパートは築年数50年のレトロな物件で、畳の部屋には大きな窓があります。その窓の外には洗濯を干す竿がかかっていて、道路にはいくつもの電信柱がありました。またその日は梅雨の晴れ間ということもあり、夜にも関わらずタオルがたくさん干してありました。上がる花火を時々それらが邪魔をして遮ることもあったけど、あの夏の光景は味があって情緒溢れていて日本の夏を味わえたことを今でも嬉しく思います。
私は昭和の頃に造られた建物や雑貨がお気に入りです。例えば木目調の丸い形をしたちゃぶ台、レトロで涼しげなグラスなどを見ると心がときめくのです。こうした感情は物だけに限らず、エッセイや映画からも感じることができます。昭和を舞台した作品には人の暖かさが散りばめられていて、心にポッと光を与えてくれるからでしょうか。友人宅で過ごしたあの夏の日はそんな私の素敵な思い出です。あれから時が過ぎ彼女は引っ越しをしました。そしてあのアパートは今もそこにまだあるかは分かりませんが、私の心には趣ある光景としてしっかりと刻まれているのでした。