哀愁を語る港のカモメ達

ある休日の夕方、海を訪れました。その日は曇っていて遠くにはかすかに工場地帯が見えていて、空には飛行機が飛んでいました。そこは都市部にある港と隣接する趣ある建物が建つ公園でした。天気はあまりよくありませんでしたが、家族連れやカップルが思い思いに海を眺めていた休日の光景は心地良いものでした。その日の光景で最も私の心に残っているのはカモメ達でした。気持ち良さそうに空を飛び、小さな波に乗るように浮かぶ彼らの姿から悠遊とした自由さを感じたものです。
思えばこの鳥は文学や音楽など様々な芸術作品に登場しています。文学では誰もが一度は聞いたことがあるこの鳥が用いられている題名の海外小説があるし、音楽ではタイトルに君臨している楽曲が幾つもあります。音楽の世界では私が知っている限りこの鳥が登場する作品は、切なさやり切れない思いを歌いあげているものが多いように感じるのです。中でも自らの人生を赤裸々に表現するシンガーが歌うカモメが登場する作品は、私の心に深く刻まれています。雨の日の夜、寝る前にラジオから流れてきたこの歌を聴いた時、その当時私の胸にあったしがらみのような物が、緩やかに動かされたような感覚を覚えたからです。力強い歌声とは裏腹にしっとりと心に響き胸を打ったこの曲は、今でも私の大切な宝として胸の奥に存在しています。
カモメは人に哀愁を与えると供に、アーティストの心を動かす魔力があるのかもしれません。今にも雨が降り出しそうな休日に見た海辺の光景は、感慨深く私の記憶にも残り続けているのです。