優しく寄り添う命宿るもの

柔らかくて温かさを感じることが出来るものを手にすると、心が満たされます。それは頭で理解するというよりも心で感じるという表現がぴったりだと思うのです。先日読んだ小説は先に挙げたような心地良さを味わうことができる不思議な優しさが込められた作品でした。せわしない日々が続いてとっても疲れてしまった夕刻の電車の中で、その優しさに触れた時涙が滲んでしまいそうになりました。それは今まで味わったことがなかった新鮮な気持ちでした。
芸術家が集まる家でお手伝いをする青年は森で出会った動物を飼い始めます。その生き物が一体何なのかもよく分からないのですが、命宿るものが持つ優しさと美しさを読み手である私に与えてくれました。言葉を発するわけではないけれど、主人公のそばで寄り添う行動からこの青年のことを全て知り受け止めているのではないかと思ったのでした。
どんなに濃厚な人間関係でも相手の全てを受け入れる事は非常に難しいものです。そこが「人」の奥深さなのかもしれません。時に上手く行かずジタバタとしてしまう人との関係を考えるとただ寄り添うだけで満たされる生き物との関係は、密度があるような気がしたのでした。
あの日の電車の中で1冊の小説から受けたあの感覚は、当時の私の状況を強く物語っていました。満たされたいという願いとそれが叶わないことがとても切なかったのでした。そんな私に温かいものに触れる時間を作ってくれた物語の存在は、今も心に寄り添い続けています。